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論文

 熊本県や大分県で地震の被害を受けられ、現在も避難生活をされておられる方々にはお悔やみ申し上げます。
 そのような方々にとって、いまさら地震の科学的情報をお知らせしても役に立たないとお怒りになるかもしれませんが、全国各地の聴取者の方々に、備えあれば憂いなしということで、住んでおられる地域の地震の可能性を知る方法を御紹介したいと思います。

 日本のマグニチュード6以上の地震の発生回数は世界の20%で、世界でもっとも地震が発生している国ですが、その地震は原因によって「海溝型」と「断層型」の2種類に分類されます。
 地球の表面はプレートと言われる厚さ100kmほどの14枚の薄い板で覆われています。
 2つのプレートが出会う場所では一方が他方の下側に沈んでいき、そのときに他方のプレートを下に引き込んでいきますが、ある程度引き込まれると反撥して跳ね上がります。
 これによって発生する地震が「海溝型地震」と言われ、跳ね上がった力によって海水が大波になって押し寄せるのが津波です。
 2011年の東日本大震災は、この種類の地震が原因です。

 プレートを薄い羊羹だと考えていただくと、引き込んだり引き込まれたりすることによって変形し、表面にヒビが入ったりズレたりしますが、これが断層といわれます。
 そのうち過去200万年以内に活動したことがある断層を活断層と言い、日本列島には2000以上あるとされています。
 この活断層がズレたりして発生する地震が「活断層型地震」といわれ、多くの場合、直下型地震になります。
 1995年の阪神淡路大震災の原因となった地震や、今回の熊本から大分にかけて発生した地震がこの種類です。

 そこで住居を選ぶときに、どこに活断層があるかを知ることは重要です。
 アメリカのカリフォルニア州では、1971年に発生した活断層型地震であるサンフェルナンド地震を契機に法律が制定され、活断層の両側15m以内は開発や不動産取引を制限していますし、地震国であるニュージーランドでも活断層周辺の開発を制限しています。
 しかし、日本では徳島県が条例で、断層の付近の幅40mでは学校、病院、ホテルなどの建設を届け出て、活断層の有無を調査することを決めていますが、日本全体にはそのような規制がありませんので、自分で調べる必要がありますが、その手段はあります。
 インターネットで産業技術研究所の活断層データベースを見ると、日本地図の上に現状で分かっているすべての活断層が表示され、関心のある地域だけを拡大することもできますので、見ておかれるといいと思います。

 この2000以上ある活断層のうち、政府の地震調査研究推進本部が活動が活発で、かつそこで地震が発生すれば社会的・経済的な影響が多大である98の活断層を選んで、主要活断層帯としています。
 この位置を知っておくことも重要です。それを知る方法は、2004年のスマトラ沖地震を契機にボランティア団体が運営している「地震情報サイトJIS」や、地震調査研究推進本部の都道府県単位で拡大することもできるサイトもありますので、これで確認することができます。

 さらに重要な情報は、地震が発生したとき、どのくらいの震度になるかということです。
 これについては防災科学技術研究所の「J-SHIS MAP」を御覧いただくと、日本列島を250m単位の格子に仕切って、それぞれの升目で各震度の地震が今後30年間に何%の確率で発生することが分かるようになっています。
 そこで今回の地震の発生した熊本と大分の一帯を調べてみると、98の主要活断層のなかに布田川(ふたがわ)断層帯も日奈久(ひなぐ)断層帯も別府・万年山(べっぷはねやま)断層帯も入っていますし、一定の規模以上の地震が発生する確率をJ-SHISの地図で調べると、今回、被害が発生した熊本市内、益城町、阿蘇市などは高い確率で表示されており、かなり適確に推定されていることが分かります。
 それを知っても移住する訳にはいかないということかもしれませんが、知っておけばある程度の準備は出来るのではないかと思いますので、時間のあるときに、活断層と地震発生確率の地図で、お住まいの場所の様子を知っておかれることも重要かと思います。

 今回、もう一つ話題になっているのが、阿蘇山が噴火するかどうかということです。
 阿蘇山は気象庁が常時観測している50の活火山の1つですが、気象庁の担当者は「地震後も阿蘇山には特別の変化はない」と発表しています。
 しかし、火山噴火予知連絡会会長や九州大学の研究者は「地震活動が活発になれば火山の噴火が起きる可能性は否定できない」と発言しています。
 その場合、もっとも脅威になるのは「カルデラ噴火」とか「破局噴火」といわれる巨大な噴火です。カルデラというのはスペイン語の鍋(ナベ)という意味で、噴火口が巨大な鍋のようになることから名付けられています。

 火山爆発の規模は噴出物の量で8段階に分けられており、日本では100立方キロメートル以上の噴出物がある場合をカルデラ噴火と呼ぶことにしています。
 琵琶湖の貯水量が27・5立方キロメートルですから、その4倍になります。
 阿蘇山では30万年前から9万年前までにカルデラ噴火が4回発生しており、特に9万年前の噴火のときには600立方キロメートルの噴火物を吹出したと推定されています。

 日本でカルデラ噴火は均等間隔に発生している訳ではありませんが、過去12万年間に18回発生しており、平均すれば6700年に1回の割合です。
 確認されている最後のカルデラ噴火は7300年前に鹿児島の屋久島近くの海中から爆発した「鬼界カルデラ噴火」ですから、現在、平均年数を越えています。
 そこまで極端な噴火が発生するかは別にして、この7000年以上の平穏な時期が変化する可能性は十分にあります。
 地震災害に会われている方々はお怒りになるかも知れませんが、このような可能性のあることを知って、日頃から警戒しておくことも必要ではないかと思います。





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