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論文

 現在、国内で刀剣ブームが発生しています。
 例えば、東京の八王子にある「東京富士美術館」では、3月29日から7月3日まで、「ザ刀剣・千年の匠の技と美」という展覧会を開いています。
 昨日(18日)から後期の展示に変わりましたが、宮本武蔵が所持していたと伝えられる「名物武蔵正宗」や、NHK大河ドラマ「真田丸」の主人公・真田幸村が徳川家康に祟りをもたらすために所持していたという伝説のある「妖刀村正」などをはじめ30以上の名刀が展示されているうえ、かなりの刀が初公開であるため、通常の1・5倍から2倍の観客が来場しているそうです。
 石川県立美術館では今日(5月19日)から7月18日(6月13日から15日は休館)まで「名物(めいぶつ)前田藤四郎と甲冑・陣羽織」という展覧会が開かれ、重要文化財「短刀・銘吉光」を公開しています。
 つい先頃の5月10日、京都国立博物館が所蔵していた刀が、坂本龍馬が京都の近江屋で暗殺されたとき、床の間に置いていた「陸奥守吉行(むつのかみよしゆき)」であることが明確になり、10月15日から京都国立博物館で開かれる特別展覧会「没後150年 坂本龍馬」で公開されるほか、12月から長崎歴史博物館、来年4月からは江戸東京博物館、7月からは静岡市美術館で展示されることになっています。
 さらに刀剣を常設展示している博物館も急速に入館者が増えているそうです。
 東京都渋谷区にある「刀剣博物館」で、国宝や重要文化財の日本刀が多数展示されていますし、東京上野にある「東京国立博物館」には、日本刀を定期的に入れ替えて常設展示している部屋があります。
 いずれも最近になり、入館者が増えているそうです。

 このような刀剣ブームの後押しをしているのが「刀剣女子」と呼ばれる比較的若い女性ですが、その女性達を目覚めさせたのが、昨年から大流行しているコンピュータゲーム「刀剣乱舞オンライン(通称とうらぶ)」です。
 これは名刀を擬人化した「刀剣男子」を育成強化して戦わせるゲームです。
 例えば、室町時代より名刀といわれる国宝「三日月宗近」は美男の剣士に変貌して活躍するという具合ですが、5月にはユーザーが100万人を突破し、3月にはスマートフォン版も登場している程の人気です。
 さらに5月前半には東京で演劇として上演され、大阪でも明日まで上演されていますが、今年の秋には『刀剣乱舞』というミュージカルにもなりますし、来年にはアニメーションがテレビジョン番組にもなるという熱狂ぶりです。

 この刀剣女子の威力を証明する例が『日刊スポーツ』に紹介されていますので、引用させていただきます。
 明後日(21日)から東京で上映される『映画日本刀・刀剣の世界』というドキュメンタリー映画がありますが、制作費700万円以外に、全国各地での上映や、海外映画祭への出品費用などとして200万円をインターネットで募金するクラウドファウンディングで調達したところ、わずか6日間で目標を達成し、さらに広告費の支援として募金を続けたところ、5月9日の締切までに約410万円に到達しました。
 ここに出資をした395人の約85%が18歳から35歳の女性だったそうです。

 このように最近の流行はゲームや漫画が起爆剤になる例が増えてきました。
 鉄道マニアの女性は「鉄子」と呼ばれますが、この活躍に影響を及ぼしたのは、2002年から06年まで『週刊ビッグコミックスピリッツ増刊IKKI(いっき)』などに連載された「鉄子の旅」というノンフィクション漫画と、その続編の「新・鉄子の旅」「鉄子の旅3代目」でした。

 ほとんど男性の仕事と考えられていた土木現場で仕事をする「土木女子」の増加を応援したのは2011年から発行された『ドボジョ!』という漫画でした。
 すでに1982年に土木学会誌が「女性土木技術者登場」という特集を組み、翌年に「土木技術者女性の会」を設立してから、大学の土木関係の女子学生の比率は1993年の9・3%から少しずつ増えていましたが、『ドボジョ!』が出版されてから増加傾向が増し、2013年には16・7%に増加しています。
 建設業界の女性就業者比率も1993年の8%から徐々に増えていましたが、2011年以後、増え方が加速し16%に到達しました。

 ゲームや漫画は一般の書籍に比べて低級で子供相手と思われがちですが、発行部数を比較すれば圧倒的多数で、影響力は絶大なのです。
 書籍のベストセラーは世界全体では1859年に出版されたチャールズ・ディケンズの『二都物語』が2億冊、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』が1億冊という規模ですが、日本語の書籍では太宰治の『人間失格』が1200万冊、村上春樹の『ノルウェイの森』が1200万冊で最大です。
 ところが日本の漫画は『ワンピース』が3億2000万部、『ゴルゴ13』が2億部、『ドラゴンボール』が1億5700万部と桁違いです。
 ゲームでも世界全体では「Wiiスポーツ」が8300万本、「スーパーマリオブラザーズ」は4000万本、「テトリス」が3500万本、「ポケットモンスター」が3200万本などですし、国内だけでも「ポケットモンスター」が3000万本、「スーパーマリオブラザーズ」が1300万本、「脳を鍛える大人のDSトレーニング」が900万本などで、書物よりも大量に流通しています。

 したがって社会への影響力を考えれば、書物よりは漫画やゲームの方が巨大ということになります。
 若者がマルクスの『資本論』や日本の『古事記』を漫画で読む時代を嘆く大人も少なくありませんが、日本が得意とする、このようなポップカルチャーを若者の娯楽としてだけではなく、社会を動かす力として世界に普及させることは重要な日本の戦略ではないかと思います。





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