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論文

 1週間後の6月23日にイギリスがEUに残留か離脱かの国民投票が行なわれます。
 EUはヨーロピアン・ユニオン、欧州連合の略で、28の国家が連合関係にある連邦国家に近い体制ですが、その中でもドイツに次ぐ経済大国のイギリスが抜ければ、きわめて影響力の大きい結果になります。
 様々な影響が心配されていますが、イギリスの離脱が決定した場合、連鎖反応が発生するのではないかと憂慮されています。
 最近の世論調査では「EUに不満」という国民の比率は、ギリシャの71%、フランスの61%、スペインの49%となっていますし、EUの中心であるドイツでさえ48%になっています。

 このようなEUからの離脱への憂慮だけではなく、既存の国家の内部でも独立の気運が高まるのではないかという心配があり、第一がイギリスの一部であるスコットランドで独立運動の再燃です。
 イギリスの正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」であるように、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドという4つの地域によって構成されていますが、1536年にウェールズ、1707年にスコットランド、1801年にアイルランドがイングランドに統合されるまでは、それぞれ民族も言語も違う王国でした。
 そのような背景から2年前の9月にスコットランドではイギリスからの独立についての国民投票が実施され、55%が反対で何とか収まりました。
 しかし、スコットランドはEU残留支持の比率が51%、離脱支持が21%と残留支持が多数派なので、もし離脱になれば、イギリス政府への不満から、再度、独立機運が高まるかも知れません。

 このようなイギリスの成立の歴史を象徴するのが、今週から始まっている4年に1回開催の「欧州サッカー連盟(UEFA)」主催「ヨーロッパ選手権(UEFAEURO2016)」です。
 現在、予選に勝ち残った24のナショナルチームが6グループに分かれて戦っていますが、そのなかにイングランド、ウェールズ、北アイルランドが入っており、なぜイギリスではないのかと不思議に思われるかも知れません。
 これは1904年に上部組織である国際サッカー連盟(FIFA)がヨーロッパの8カ国により設立されたときに遡ります。
 それより20年前の1882年にイギリスは4つの地域が共通のルールで試合をするために国際サッカー協議会を設立していたのですが、FIFAが設立された翌年の1905年にサッカー発祥の地であるイギリスにも参加してもらうために、FIFAが例外的に4つの地域を別々に参加させることを了解したのです。
 その影響で、FIFAは国単位ではなく、地域単位での加盟が認められ、台湾、香港、デンマークのフェロー諸島、オランダのキュラソー島、アメリカのグアムなど10以上の地域が参加し、国連加盟国193カ国以上の211の国や地域が加盟しています。
 スコットランドは予選で負けたので、今回のヨーロッパ選手権には出場していませんが、UEFAやFIFAには加盟しています。  

 既存の国家から独立したいという気持をもたらす要因は、スコットランドのように民族が違う、言語が違うという理由以外に、宗教が違う、国内格差があるなどの理由があり、その結果、世界各地に独立を狙っている地域が数多くあります。

 スペインのフランスと国境を接する北東部に位置するカタルーニャ州も1479年にスペインが統一されるまではカタルーニャ君主国という独立国であり、言語もスペイン語以外にカタルーニャ語を公用語としており、独立の気運が強い地域です。
 2006年にカタルーニャ自治憲章が制定されましたが、2010年に憲法裁判所が違憲であるという判決を出したため、独立運動が活発になり、2014年に独立住民投票が行なわれ、独立賛成が80%を越えました。
 しかし、投票に参加した人が住民の3分の1でしかなかったという理由でスペイン首相が認め難いとしたため、さらに独立運動が盛り上がり、今年1月に就任したカタルーニャ州の新首相プッチダモンは18ヶ月以内に「カタルーニャ共和国」を樹立すると宣言しており、予断を許しません。

 スペインのサッカーリーグ「リーガ・エスパニョーラ」には「エル・クラシコ」といわれる伝統の一戦があります。
 これはマドリードを本拠としてクリスチャーノ・ロナウドが活躍する「レアル・マドリード」と、メッシ、スアレス、ネイマールが活躍する「FCバルセロナ」の対戦ですが、リーガ・エスパニョーラの両雄の対決というだけではなく、ご紹介したような政治的背景を知りながら見ると、一層、興味が湧く熱戦になります。
 これまでレアル・マドリードが93勝、FCバルセロナが91勝という伯仲した結果になっており、今年4月2日の試合の生中継を深夜3時からテレビジョンで見ましたが、普通のライバルの対戦を越えた独立戦争を想像させるような凄い試合でした。

 1990年代になり、「民族のるつぼ」といわれるバルカン半島に位置するユーゴスラビアが解体して、スロベニア(1991)、マケドニア(1991)、クロアチア(1991)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(1992)、モンテネグロ(1903)、セルビア(1903)、コソボ(1908)など多数の新しい国家が生まれました。
 またチェコスロバキアが解体してチェコ(1993)とスロバキア(1993)が誕生し、この20年程の間に一気に10数ケ国が分離独立しています。
 この地域もサッカーの名選手を輩出しており、グランパスエイトの選手、監督をしたストイコビッチはセルビア、日本代表監督のハリルホジッチはボスニア・ヘルツェゴビナ、サンフレッチェ広島に在籍するミキッチはクロアチアなどが有名ですが、これまでJリーグに在籍した選手は数十人にもなります。

 今週から始まった「UEFAEURO2016」にも、その地域からアルバニア、クロアチア、スロバキア、チェコなどが参加しており、単にサッカーの試合としてだけではなく、本日(16日)深夜のウェールズ対イングランド戦、明日(17日)深夜のチェコ対クロアチア戦、19日の未明のルーマニア対アルバニア戦などは、スポーツの試合としてだけではなく、民族の歴史を背負って戦っている試合として観戦すると、より深く味わえると思います。





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