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論文

 先週の30日は「土用の丑の日」で、日本ではウナギの蒲焼を食べる風習がありますが、今年は少々変わった蒲焼が登場しました。
 ナマズの蒲焼です。これまでもナマズを食べさせる料理店は全国にあり、僕も食べたことがありますが、話題になったのは近畿大学が養殖したナマズの蒲焼をスーパーマーケットのイオンなどが商品としてウナギより3割ほど安い値段で売出したことです。
 近畿大学は30年かけて養殖マグロの産んだ卵からマグロの成魚を育てるという完全養殖に成功したことで有名ですが、今回は泥臭さがなく、しかも脂が乗って皮も柔らかいナマズを開発して養殖し、それが商品になったという訳です。

 このようなウナギの代用品が登場する背景は、ニホンウナギの資源量が急速に減少しており、このまま進むと絶滅するかもしれないという危惧です。
 実際、2000年には国産と輸入を合計して日本のウナギの消費量は15万トンほどでしたが、昨年は5万トンと3分の1になっています。
 また、ニホンウナギはシラスウナギといわれる天然の稚魚を採集して養殖するのですが、日本国内で採集される稚魚は1963年には232トンでしたが、今年は14トンと17分の1になっており、絶滅が心配されています。
 すでに2年前には国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギを絶滅危惧種に指定し、3年後に開催されるワシントン条約締約国会議で規制の対象にされる可能性もでてきました。
 ワシントン条約は正式には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といわれ、絶滅が心配される動植物の国際取引を規制する制度です。
 そうなると現在、中国、韓国、台湾から輸入しているシラスやウナギが入って来なくなり、超高級品になってしまうので、このような代用品が開発されているということです。

 実は現在、私たちが食べている食品には代用品が数多くあります。
 第一はウナギの代用品としてナマズというように、かつては普通に流通していた食材が減少して高級品になったため、それに近い動物や植物を食用にするという例です。
 一例は「ロコガイ」というアワビの代用品です。現在は使用しないようにというガイドラインができましたが、以前は「チリアワビ」という名前で流通していました。
 名前からも分かるように南米の太平洋岸で獲れる巻貝の一種で、チリに行ったときには何度も食べましたが、レストランで注文すると、大きな皿にソテーにしたロコガイが10個ほど乗って400円から500円という値段で、味もほとんどアワビと変わらない値打ち品でした。

 岐阜県飛騨地方をはじめ、各地で養殖され名物料理になっている「カワフグ」という魚も流通しています。
 現在はチリアワビと同様、カワフグという名称は使わないようにというガイドラインが定められていますが、これはアメリカ原産の「アメリカナマズ」で、アメリカでは大量に養殖して魚粉にして飼料や肥料として使われていた淡水魚です。岐阜で薄造りにした刺身を食べたことがありますが、美味しい刺身でした。
 シシャモについても代用品が流通しています。
 正式には「カペリン」、俗称「カラフトシシャモ」といわれる魚で、どちらもキュウリウオ科の魚で、シシャモの代用品として流通しています。

 第二は人造の代用品です。
 牛乳を原料とするバターが高価であるため、安価な代用品として植物性や動物性の油脂を原料として作られるのがマーガリンです。
 これは19世紀中頃にナポレオン三世の要請によりフランスで開発され、日本にも明治初期に輸入されています。
 日本で開発されたのはサケの卵であるイクラの代用品の人造イクラです。
 これは日本カーバイド工業が開発した製品で、中味はサラダオイルや海藻エキスを使用し、皮はカラギーナンやアルギン酸ナトリウムという化学物質が使われていますが、最近では天然のイクラのほうが安くなったので、あまり流通しなくなりました。

 しかし、世界に流通している日本発の代用品の傑作は「カニカマ」です。
 これは冷凍のスケトウダラのすり身を急速に解凍して、もう一度冷凍するとカニの足の肉と同じような細長い繊維が出来るので、それを成形して表面を天然着色料で赤色にした製品です。
 1979年に日本の食品機械メーカーが製造装置を開発したことにより大量生産が可能になり、日本だけではなく、現在ではアメリカ、ロシア、フランス、イタリア、ブラジルなどでもカニカマがヘルシーフードとして愛好されています。

 まだまだ多数ありますが、代用品というと本物より劣るという印象がありますが、これには2種類の重要な意味があると思います。
 第一は資源の保護、さらには生物の保護という観点からの意味です。
 絶滅しそうなウナギを救うためのナマズは象徴的ですし、カニカマもアラスカのタラバガニが壊滅状態になってからアメリカで流行するようになっています。
 第二は種類の豊富な豊かな食事を提供するという意味です。
 縄文時代のような採集時代には人類は1500種類以上の植物を食料にしていましたが、農耕を始めるようになって500種類くらいになり、最近のように大規模農業が世界に浸透すると人間は数10種類の作物で生活しているといわれます。つまり限られた種類の食品で単調な食事をしているのです。

 私は世界各地の先住民族を訪ね、ネズミ、ワニ、ウミガメ、イッカク、昆虫など様々な動物や、日本では普通に食用になっていない様々な植物を食べてきましたが、先入観を取り払えば種類の多い豊かな食事です。
 世界全体で食料不足が深刻になっていく時代に代用品としてではなく、豊かな食事として、これまで食料とされてこなかった資源を味わうことは重要だと思います。





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