TOPページへ論文ページへ
論文

 リオデジャネイロ・オリンピック大会が終了し、日本は金メダル12個、銀メダル8個、銅メダル21個、合計41個のメダルを獲得しました。
 以前より競技種目が増えているし、今回はロシアの参加種目が減っているので、単純には比較できませんが、過去最高のメダル数で、国別では6位になりました。
 近代オリンピックを提唱したクーベルタン男爵が「勝利することではなく、参加することに意義がある」と述べたそうですが、はやり国民にとっては勝利に関心がありますから、メダル数の記録更新は嬉しいことです。

 ところで世の中には文武両道という言葉がありますが、スポーツで好成績を残している日本も、文である科学技術の分野で成績が十分ではありません。
 8月中頃、世界知的所有権機関(WIPO)を中心とした組織が世界の128カ国を対象に82の項目のデータをもとに計算した技術革新力(グローバル・イノベーション・インデックス)の順位を発表しました。
 日本は昨年の19位から16位に上ってはいますが、アジアではシンガポールが7位、韓国が11位、香港が14位ですから、意外に低い順位です。

 そこで、日本の科学技術力の現状を、研究開発に必要な資源であるヒト、モノ、カネに分けて調べてみます。
 ヒトとして研究者数を調べると、アメリカが数値を発表していないので割引いて考える必要がありますが、総数では日本は中国に次いで2番目に多い国です。
 しかし、人口あたりでは15位で、韓国の7位、シンガポールの11位よりも下です。
 人数は少なくても質が良ければ問題ありませんが、この視点からは日本は優秀で、博士号を持っている研究者の比率はシンガポールに次いで世界2位ですし、発表論文数もアメリカ、中国に次いで3位、人口あたりの特許取得数もルクセンブルグ、スイス、韓国に次いで4位ですから、世界の上位にあります。

 モノですが、現在の研究開発に必須のモノは情報処理技術と通信技術です。
 しかし、コンピュータの人口あたり普及台数は香港が8位、韓国が18位、シンガポールが19位、日本は22位ですし、そのコンピュータのなかでも国力を象徴するスーパーコンピュータは今年6月の順位で、1位、2位が中国、3位、4位がアメリカで、日本の「京コンピュータ」は5位に下がり、その速度も1位の中国のコンピュータの9分の1程度で、「2位ではだめですか?」と言っている間に、このような状態になってしまいました。
 インターネットのブロードバンドの人口あたり利用者数は、日本は1位になったのですが、十分使っているかというと疑問があります。
 一例ですが、イギリスの調査会社が発表した、フェースブック、インスタグラムなどSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を国民が平均1日に何時間使っているかという数字を見ると、1位のフィリピンは3時間56分であるのに、日本は最下位の19分でフィリピンの12分の1でしかありませんし、日本より一つ上位の韓国でも1時間3分で日本の3倍です。
 通信をどのような目的に使うかにもよりますが、技術の利用で劣勢になっていることが分かります。

 最後のカネですが、人口1人あたり科学研究費は、日本は12位でアジアの中では1番ですし、国内総生産の何%を科学研究費に充てているかも日本は世界3位ですから不足はないようです。

 それでも最初に説明したように、世界の趨勢から遅れをとっている原因は何処にあるかということです。
 第一は研究者や資金の流動性の問題です。
 日本の研究者は質量ともそれほど劣っているわけではありませんが、人工知能やサイバーセキュリティなど先端分野の研究者は大幅に不足しているといわれ、日本の企業は、この分野の研究所はアメリカに設立し、アメリカの研究者を雇用しています。
 日本の研究者は自分の専門分野を簡単に変えない傾向にありますが、現在のように新しい分野が急速に発展していく場合には、これが弱点になります。

 第二は国際経験が不足していることです。
 外国から国内の大学に来る留学生の人口あたりの比率は、シンガポールが世界3位、香港は17位、韓国が37位ですが、日本は40位ですし、逆に外国へ留学する大学生の人口あたり比率は、香港は4位、シンガポールが5位、モンゴルが15位、韓国が17位、マレーシアが19位、中国が45位ですが、日本は53位です。
 日本に優秀な大学があるということかも知れませんが、もう一つ考えられる理由は英語が苦手ということです。
 2013年のTOEFLの試験成績を見ると、アジアではシンガポールが4位、マレーシアとフィリピンが32位、韓国が43位、中国が46位、日本は61位です。ちなみにモンゴルは日本より上の60位です。
 ノーベル物理学賞を受賞された益川敏秀先生のように、68歳でノーベル賞受賞のためにスウェーデンに行ったのが人生最初の外国旅行で、受賞講演も日本語で行なったという立派な学者もおられますので、英語は必須ではないにしても、これからは必要だと思います。

 第三は最近、日本学術会議でも議論が始まりましたが、軍民両用(デュアルユース)研究の問題です。
 アメリカも中国もEU諸国も一般の科学研究費とは別に、巨額の国防関係の研究費があります。
 その国防研究で開発されたインターネットやドローンやロケットなどが新しい社会を創り出していますし、サイバーセキュリティ関係は中国でもアメリカでも軍事研究が大きな比率を占めています。
 この分野が欠如している日本が見掛けの数字には現れない格差があるということも考える必要があると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.