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論文

 先週の土曜日(9月3日)、中学生の藤井聡太さんが日本将棋連盟主催の奨励会三段リーグで優勝して四段昇格が決定し、プロになることになりました。
 14歳2か月ですが、これまでの加藤一二三(現)九段の14歳7か月よりも5か月早い、史上最年少記録です。
 囲碁については、さらに早く、趙治勲(ちょうちくん)25世本因坊は11歳9か月でプロ試験に合格、女性では藤沢里菜(りな)三段が11歳6か月でプロになっています。
 このような早熟の天才は色々な分野に登場しています。

 芸術の分野の有名な例は作曲家のモーツアルトです。
 逸話には事欠かない天才で、すでに5歳のときに作曲し(アンダンテ ハ長調)、6歳のときにはバイオリンの調律が8分の1音、高くなっていることを見抜いたという話もあります。
 しかし、有名な逸話は13歳のときに父親とともにローマのバチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂に行ったとき、門外不出とされていた9声部からなる「ミゼレーレ」という合唱曲を聴き、礼拝堂を出てから全曲を音符に書き記したそうです。

 楽器の演奏では世界に数多くの最年少逸話がありますが、バイオリニストの五嶋(ごとう)みどりさんは、6歳のときに、演奏が難しいとされているパガニーニの「カプリース」を舞台で演奏し、15歳のときにはアメリカのタングルウッド音楽祭でバーンステインの指揮で演奏中、バイオリンの弦が2度も切れたので、コンサートマスターと副コンサートマスターのバイオリンを借りて演奏しますが、自分のバイオリンより一回り大きい楽器にもかかわらず見事に演奏し、アメリカの小学校の教科書に「タングルウッドの奇跡」として紹介されていたほどでした。

 資格取得の分野にも数多くの最年少記録があります。
 国家資格である、気象予報士は13歳、通訳案内士は14歳、公認会計士は16歳、行政書士は16歳などです。
 スポーツでも、戦前から活躍した中日ドラゴンズの西沢道夫選手は最年少出場、最年少打席、最年少安打、最年少二塁打、最年少打点、最年少登板、最年少完投などを16歳のときに達成しています。
 戦前の1937年のことですから、現在とは状況が違うとはいえ、いまだに破られない記録です。

 学問の分野にも数多くの記録があります。
 日本の大学は学校教育法第92条に教授、准教授、助教、助手という職務が定められており、一般には順番に上がっていくため、なかなか20代で教授になるのは難しいのですが、そのような制約のない外国では若い教授が誕生しています。
 アメリカで有名な例は1898年生まれのウィリアム・ジェイムズ・サイディズで、2歳でラテン語、3歳でギリシャ語を習得し、3歳のときにカエサルの書いた「ガリア戦記」をラテン語で読み、4歳でホメロスの書物をギリシャ語で読み、8歳のときには8つの言語を習得し、それぞれの言葉で本を書いたそうです。
 11歳でハーバード大学に史上最年少で入学し、16歳でヒューストンのライス大学の数学教授になっています。

 それに比べるとサイバネティクスという学問を創り出したノーバート・ウィナーはやや遅れますが、11歳でタフツ大学に入学、14歳で数学の学位を取得、18歳で博士号を取得、24歳でMITの講師になっています。
 同じ時代に活躍したジョン・フォン・ノイマンも幼児の時期からラテン語とギリシャ語を習得、8歳で微分積分を習得、17歳で数学の論文を発表しています。
 24歳から3年間、ベルリン大学で最年少の講師になりますが、ナチス政権から逃れて27歳でアメリカのプリンストン高等研究所に招かれ、数学教授を勤めます。
 ゲーム理論、モンテカルロ法などを考え、コンピュータや原子爆弾の開発にも多大の貢献をしています。
 異常な能力を発揮し、ENIACという世界最初の電子計算機が完成したとき、その計算機よりも早く暗算で答を出し「自分の次に頭の良い奴が出てきた」と言った、水爆の効率を計算するとき、フェルミは計算尺で、ファインマンは卓上計算機で、ノイマンは暗算で計算したが、ノイマンがもっとも早く正確な答を出したなど、逸話には事欠きません。

 このような天才は日本にもいます。
 京都大学数理解析研究所の望月新一教授は16歳で名門プリンストン大学に入学して3年で卒業、22歳で博士号を取得し、26歳で京都大学助教授、32歳で教授になっておられますが、2012年に長年、難問とされてきた「ABC予想」という問題を解いたという論文を発表され、正しければ「21世紀の数学の偉大な成果」と言われています。

 これら天才を表現する指標に知能指数(IQ)があります。
 これは同年代の集団の丁度真ん中になる人の知能を100とし、上下に15ずつ拡大した85から115の範囲に68%の人が含まれる正規分布にした数字です。
 したがって数字が大きいほど天才とされますが、先程紹介したサイディズは250から300、フォン・ノイマンは300以上といわれますし、チェスの世界チャンピオンであったガリル・カスパロフは194、アインシュタインが190とされています。

 問題は、日本には望月教授のような天才も存在しますが、アメリカなどに比べると目立たないことです。
 いくつか理由がありますが、まず日本は実力主義にはなっていないことです。
 最近は緩やかになりましたが、教授が引退するまで准教授は教授になれないという慣習が残っているなど、実力と地位が相関しないため、優秀な人材が外国に行く傾向にあります。
 もう一つは初等教育の基本が上を引き上げるよりは全体を持上げることに集中しているため、天才が育ちにくい社会だということです。
 その証拠に、五嶋みどりさんも望月教授も若いときからアメリカで教育を受けて能力を発揮しています。
 さらに少し芽が出始めると、マスメディアが番組に引張り出し、官庁が委員会の委員にするなど、研究の邪魔をすることも影響しています。
 日本の教育制度を再考すべきだと思います。





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