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論文

 今年1月に亡くなったアメリカの有名な予言者ロン・バードが、1年前に今年の10月までに富士山が噴火すると予言していますし、日本の松原照子さんという予言者も2014年から16年、遅くとも18年までに噴火すると言っています。
 当たるも八卦、当たらぬも八卦と言ってしまえば、それまでですが、歴史のなかには、かなり先の社会の予言で、実現したものが少なくありません。

 フランスの作家で「空想科学小説の父」とも呼ばれるジュール・ベルヌは1865年の『地球から月へ』と1870年の『月世界に行く』という有人の月世界旅行を描いた小説を発表しています。
 これは1969年のアメリカによる月面着陸によって現実になりましたので、ほぼ100年前に予言したことになります。
 さらにロケットの打上げ場所はフロリダ半島の大西洋上に設定していますが、現在のアメリカのロケット発射基地ケネディ宇宙センターの近くですし、月までの飛行時間を97時間としていますが、アポロ11号が地球を出発して月面に到着するまでの時間が102時間45分でしたから、これもほぼ当たっています。

 アメリカの作家エドワード・ベラミーは1888年に発表した小説『顧みれば2000−1887』で、ヨーロッパを旅行するアメリカ人がクレジットカードで支払う状態を「金と同じくらい役に立つ」と書いていますが、実際、1950年代にアメリカの銀行がクレジットカードを発行していますので、60年以上先の経済活動の未来を描いていたことになります。

 イギリスの作家H・G・ウェルズは1913年に発表した未来小説『解放された世界』で1950年代の世界を描いていますが、その中で、飛行機のパイロットが爆弾のヒューズを歯で噛み切って、コックピットの窓から外に放り投げ、一つの都市を破壊しつくすという状況を描写しています。
 飛行機の発達については予測を誤っていますし、爆弾も手榴弾ほどの大きさになっているなど実現した爆弾とは違っていますが、「原子爆弾」という名前で呼んでいることは正確で、1945年7月16日にアメリカのニューメキシコ州で実施された人類初の核実験に先立つこと32年の予言でした。

 天才的学者として、一時はノーベル物理学賞の候補にもなったニコラ・テスラはエジソンの研究所にいましたが、送電技術についてエジソンと対立して研究所を1885年に飛び出しています。
 その後1904年にアメリカの技術雑誌に「人々は世界のニュースや特別な伝言を記録する携帯受信機を持ち運ぶ時代が来て、世界の何処に居ても応答可能な社会が実現する」と書いています。
 トランシーバーのような特定の相手との通信は第二次世界大戦中に実用になっていますが、不特定の相手と通信できる携帯電話は70年代に実現しましたから、テスラは70年先の技術を予言したことになります。

 このように技術自体の将来は比較的見通しが出来る場合がありますが、それをビジネスにすると、欲がからむせいか当たらない事例が数多くあります。
 有名な例はエジソンが1877年に発明した蓄音機です。
 発明自体は大変な話題になりましたが、エジソンは1880年に「蓄音機には何の商品価値もない」と助手に言ったと記録されていますし、技術の改良にも取組みませんでした。
 現在はiPodのような個体素子に録音する時代になってしまいましたが、2001年にiPodが発売されるまで100年以上、音楽を楽しむ手段として貢献しました。

 これも有名ですが、IBMは紆余曲折があるものの、大型コンピュータが実用的な商品になる時代から現在までコンピュータ産業の巨人です。
 しかし、その初代社長トーマス・ワトソンは1943年に「世界でコンピュータの需要は5台程度」と語ったという伝説があります。
 これはワトソンの言葉ではなく、IBMの資金援助によって「ハーバード・マーク・ワン」というコンピュータを開発したハワード・エイケンが「各地の研究所に半ダースほどのコンピュータがあれば、アメリカのあらゆる計算需要に応えられる」といった言葉が誤って伝わったとされていますが、いずれにせよ現代の社会には無くてはならない技術も、初期にはその程度の認識でした。
 初期のコンピュータは手作りで、あまりにも高価だったという背景がありますが、コンピュータが安価になった30年後にも同様の間違いは発生しています。

 1957年にデジタル・エクイップメント(DEC)を創立して、IBMのコンピュータが数億円していた時代に、1000万円台の小型コンピュータを開発したケン・オルセンは1977年に「個人が自分の家庭にコンピュータを持つ理由はない」という講演をしています。
 現在、パーソナル・コンピュータは日本の家庭の80%に普及し、所有している世帯あたりでは平均1・6台になっていますから、大間違いでした。

 放射線の性質を解明して1908年にノーベル化学賞を受賞したアーネスト・ラザフォードは「現在の知識では、原子力エネルギーを利用できると主張する者はたわ言を言っているに過ぎない」と発言しています。
 しかし、1954年にソビエト連邦で世界最初の商用原子力発電所が実現し、ラザフォードの発言の方がたわ言になってしまいました。

 このように見てくると、地震予知連絡会はなかなか地震を予測できないし、火山噴火予知連絡会も十分に予測は出来ないように、複雑な自然現象の予測は困難のようです。
 一方、アインシュタインが重力によって空間が歪むという理論は3年後の日食の観測で実証され、2人の学者が1974年にフロンによりオゾン層が破壊されるという論文を発表してから10年後には南極上空で事実が確認されているように、科学理論は比較的短期間で実証されています。
 しかし、レコードの普及やコンピュータの普及のように人間の欲望が関係すると予測は大幅に外れる例が多いということになります。
 古来、未来を予測することは人間の欲求ですが、それが出来ないというところに人間の希望があると考え、あまり予言や占いなどに頼らないことが重要だと思います。





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