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論文

 先週、昨年が「バーチャルリアリティ元年」と言われ、その方向に社会が着実に進んできたということを紹介しました。
 それでは今年は*元年かということですが、いくつかの候補が挙っています。
 まず納得できそうなものは「完全自動運転元年」です。
 自動運転は4段階で進歩していくと想定されていますが、加速、操舵、停止の動作のうち、どれか1つの動作を自動でおこなう車両がレベル1、これはすでに衝突しそうになると自動停止する車両が市販されています。
 2つの動作を自動でおこなう車両がレベル2で、これも高速道路などで、前方の状況を判断して加速したり減速したりする車両が市販されています。
 さらに進んで進路変更も車線変更も自動でおこなうが、緊急事態のときなどは人間が代わるという車両がレベル3で、2020年には実現を目指しています。
 レベル4はまったく人間が関与しなくても目的地まで到達する車両で、鉱山などの無人ダンプカーなどでは実用になっていますが、公道では実験段階です。
 このレベル4を目指した本格的開発が急速に進むのが今年からという意味です。

 それに近い技術分野の元年では、高度な人工知能を備えたロボットが普及するという「スマートロボット元年」や「ビットコイン元年」も登場しています。
 それ以外に、インターネットで買物もでき、VRで旅行体験もできるようになるので「出不精元年」になるという予測も登場しています。

 しかし本命は「テレビジョン・ストリーミング元年」ではないかと思います。
 テレビジョン番組が放送されているときに留守の場合は録画装置に録画して後から見るということが普通ですが、次第に放送局がサーバーに番組を記録しておき、見たい人がインターネット回線経由で見るという時代になっています。
 初期には、インターネット回線が低速のため、手許のコンピュータに番組全体をダウンロードしてから見るという状態でしたが、最近は高速回線が普及してきたため、サーバーから情報を送信してもらいながら同時進行で見て行くという状態に進歩しており、これをストリーミングと言います。
 情報が川の流れのように送られてくるという意味です。
 ストリーミングや、それに近い技術を使って、あらかじめサーバーに蓄えられている画像を見るサービスは以前から存在します。
 2005年から始まっている「ユーチューブ」、2008年から始まっている「NHKオンデマンド」、アメリカから日本に2011年に進出してきた「Hulu」、同じく2015年から日本でもサービスを開始した「ネットフリックス」は、これらの技術を使って送信しています。
 これから本格的に始まるのは、放送局が普通に電波やCATV回線で放送している番組を、同時にインターネット回線でも見ることが出来るようにするという、リアルタイムのストリーミングです。
 これは現在のCATV放送と同じサービスをインターネット回線で行なうことに相当しますが、事業者にとっては回線を敷設する負担がないために初期投資はわずかですし、新たな課金をすることができるし、CATVのように地域に制約されることなく、世界を対象にサービスもできるために有望なビジネスになると考えられています。
 実際、アメリカのディレクTVはサービスを開始していますし、Huluも参入する予定でフォックスTVやディズニーチャンネル、スポーツ番組を提供しているESPNなどと提携する準備をしているようです。
 さらにアマゾンも今年から参入予定で、アメリカのプロバスケット協会(NBA)、メジャーリーグベースボール(MLB)、アメリカンフットボールリーグ(NFL)などと生中継放送をする交渉を始めていると言われています。

 これによって何が起こるかについて日本を中心に考えてみたいと思います。
 これまで放送番組はテレビジョン受像機で見るというのが常識でしたが、それがコンピュータやスマートフォンに移る可能性があります。
 2020年頃から第5世代の携帯電話時代になると現在の10倍程度の通信速度になりますから、家の中で受像機の前に坐って見るという時代は変わり、好きな場所で携帯端末で番組を見ることができます。
 そういう時代にもかかわらず、日本は4Kや8Kという100インチクラスの受像機で見なければ効果が少ない高精細の放送技術を開発しています。
 医療やデザイン分野での需要はあるにしても、家庭で見る番組に需要があるかは疑問ですし、一般の家庭には100インチの装置の置き場所がありません。
 1980年代に携帯電話が登場し、90年代にインターネットが登場した時期に、アメリカでは放送は有線に、通信は無線にという方針で情報社会を構築する戦略を進めてきました。
 しかし、日本では依然として放送は電波で高精細な画像を送るという方針なのです。
 このテレビジョンからインターネットへという変化は広告費の比率にも現れており、テレビジョン放送の広告費は横這いですが、インターネット関連の広告費は過去10年で3.3倍に増え、2015年にはテレビジョン放送の6割にまで迫っていますし、アメリカでは昨年の後半に逆転されています。
(*日本では2019年に逆転)
 そして有料にせよ、現在、放送されている番組以外にも、アーカイブから自由に選択して見ることが出来るようになれば、現在、日本の放送局が放送している番組のかなりは見向きもされない時代が来ることにもなりかねません。
 かつてアメリカの歌手ブルース・スプリングスティーンが「50チャンネルも放送されているのに、ろくな番組がない」と発言していましたし、日本がアナログ・ハイビジョンの開発に苦労していた1980年代に、アメリカの学者が「高解像度の画面でつまらない番組を見たいか、多少粗い画面でも面白い番組をみたいか」と皮肉っていましたが、それが明白になってくる可能性があります。

 そして止めを刺すのが若者のテレビジョン離れです。
 NHK放送文化研究所が昨年2月に発表した「2015年国民生活時間調査」によると、平日1日にテレビジョン番組を見る時間は70代男性では5時間16分ですが、50代では2時間30分と半分以下になり、20代では1時間37分になり、しかも毎年低下しています。
 若い世代は娯楽もニュースもインターネットで入手しているのです。
 日本のテレビジョンが高精細ではあるが「ろくな番組がない」という状態を続ければ、最初の放送から90年近い歴史をもつテレビジョンという情報媒体の終わりの始まりが「TVストリーミング元年」から始まるかも知れません。





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