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論文

 今日はパラダイムシフトの話をさせていただきますが、理由は3日後の2月19日がニコラウス・コペルニクスの誕生日という、風が吹けば桶屋が儲かるような根拠です。
 544年前の1473年、ポーランドのトルンという町にコペルニクスが生まれた日が2月19日で、生まれた家は現在でもトルンの中心地に残っています。
 コペルニクスが歴史に名前を残しているのは、それまで地球は宇宙の中心にあり、すべての天体は地球の回りを回っているという天動説がキリスト教世界を支配していましたが、コペルニクスは宇宙の中心は太陽であり、地球は自転しながら太陽の回りを公転しているという地動説を唱えたからです。
 これは従来の科学的概念を変えただけではなく、キリスト教の宗教的基盤も変える大変革でした。
 これを科学の歴史的な変化だと説明したのは、1962年にアメリカのトーマス・クーンという科学史の学者が発表した「科学革命の構造」という本で、そこで使われた「パラダイムシフト」という言葉が有名になりました。
 私も大学院生のときに読んだほどですから、かなりの話題になった本です。
 パラダイムは規範と訳されることが多いのですが、ある時代や、ある社会の基礎となるような概念という意味で、それが逆転したり、否定されたりすることをパラダイムシフトという訳です。

 科学の分野では、いくつも例があります。
 チャールズ・ダーウィンが1859年に出版した「種の起源」で発表した進化論は、それまで神が人間を創造したという旧約聖書の説明を否定し、下等な生物から高等な生物に進化した過程で人間が誕生したという大変化を唱えたので、パラダイムシフトでした。
 地球の表面は一枚岩ではなく、プレートという何十枚かの薄い板によって覆われているという「プレート理論」が現在の主流です。
 その元になったのは、ドイツの気象学者アルフレート・ウェゲナーが1915年に発表した「大陸と海洋の起源」という本ですが、動かざること山の如しという言葉もあるように、それまで不動の存在と考えられていた大陸が絶えず動いているということを発表し、やはりパラダイムシフトでした。

 パラダイムシフトは一言で言えば、それまでの常識を否定することになりますから、社会はなかなか受け容れません。
 コペルニクスの後に地動説を唱えたガリレオは、1633年にローマ教皇庁から有罪判決を受け、軟禁されましたが、その名誉が回復したのは1992年ですから、359年も誤審のままであったことになります。
 ダーウィンの進化論は現在でも受け容れないという人々が多数存在するほどです。
 大陸が移動するということが認められるまでに30年近くかかっています。

 理論的と思われる科学の分野でも、パラダイムシフトが受け容れられるのは時間がかかりますから、政治や経済などの社会現象については、さらに困難です。
 先々週も紹介しましたが、150年前の明治維新は日本にとってパラダイムシフトでした。
 それまでの鎖国から開国に転換し、約300藩の分権社会を明治政府の集権社会にするなど、それ以前とはまったく違う社会に転換したのです。
 当然、このパラダイムシフトを簡単に受け容れない人々が存在し、戊辰戦争、佐賀戦争、西南戦争などの騒乱が発生し、安定するまでには相当の年数を必要としました。

 そのような社会に騒乱をもたらす現象について、アメリカの政治学者イアン・ブレマーが1998年に設立したユーラシア・グループという政治リスクを専門とするコンサルティング会社が毎年1月に「今年の世界10大リスク」を発表していますが、その中にもパラダイムシフトが含まれ、なかなか当たると評価されています。
 2010年には前年9月に誕生した民主党の鳩山政権が登場すると、2010年中には交代すると世界第5位のリスクに挙げていましたが、6月に交代し的中しました。
 2011年には最大のリスクを「Gゼロ」と予測しました。
 G7やG20は世界の問題解決の基盤にはならず、アメリカ主導の世界体制は終わるという内容ですが、その方向に世界は着々と動いてきました。
 このGゼロが2017年の10大リスクに反映しており、1位が「インデペンデント・アメリカ」になっています。
 すでにオバマ大統領が2013年に「アメリカは世界の警察官ではない」という見解を表明した時期から気配はありましたが、トランプ大統領も「アメリカ・ファースト」を表明し、政治の中心を国際関係から国内活動に転換し、TPPからの離脱やNAFTAの見直しなど、これまでアメリカが目指してきた国際協調路線を転換して、インデペンデント・アメリカ(独自路線のアメリカ)を一直線に進んでおり、まさにパラダイムシフトです。

 このパラダイムシフトは政府と情報手段との関係にも反映しており、これまで社会の動向を左右していたマスメディアは遠ざけられ、新政権はSNSのような国民と直接、情報のやり取りをするメディアを多用する方向に急転換しています。
 インターネットが登場したときに、電話を中心とした時代に貢献した研究者などは懐疑的でしたが、しばらくすると電話に関係が薄かった研究者などが中心になっていましたし、電子商取引などのビジネスについても同様でした。
 シフトする以前のパラダイムに慣れ親しんだ人々にとって、新しいパラダイムに抵抗があるのは当然ですが、やはり新しい世界を見据えて対応することも重要だと思います。
 ユーラシア・グループはトランプ大統領の行動方針はアメリカ孤立主義ではなく、単独行動主義だと説明しています。
 そのような視点からすると、安倍総理がトランプ大統領の元に駆けつけてゴルフや食事をすることを朝貢外交と揶揄する意見もありますが、トランプ大統領の行動規範がパラダイムシフトであれば、意外に正しい行動と評価されるかも知れません。





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