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論文

 夏休みになりましたので、家族で色々な場所に行かれると思いますが、その有力候補の一つが水族館です。
 そこで今日は水族館のウンチクをご紹介したいと思います。
 まず水族館の発祥は定義にもよりますが、実際の証拠がある最古の水族館は紀元79年8月のヴェスヴィオス火山の噴火で全滅したポンペイの遺跡から発見された室内の水槽とされています。
 これはウツボを飼育していたのですが、鑑賞と同時に食用の目的でもあり、招かれた客が指定したウツボを調理した生簀料理の元祖の役割をしていました。

 現在のようにガラスの水槽に魚を入れて上や横から眺めるようになった水族館の最初は1870年代のことです。
 それより200年以上前からお金持がガラスの容器で魚を飼うことを趣味にしていましたが、一般に公開する現在の水族館に近い施設は1853年にロンドン・リージェント・パーク動物園の内部に作られたものが最初とされています。
 当時の絵が残っていますが、現在の熱帯魚を飼育するような水槽が14個、机の上に置かれ、魚以外にカニやヒトデ、イソギンチャクなどを展示していました。
 これが人気となって、ヨーロッパに水族館ブームが発生し、数十都市に水族館が建設され、1888年以後はアメリカにも波及しました。

 その中の一つでパリの植物園にあった水族館を1863年に視察したのが、文久遣欧使節団の通訳として同行した福沢諭吉で、日記に「海魚は玻璃器(はりき)に入れ、時に新鮮の海水を与えて生きながらに貯えり」と記録しています。
 さらに明治時代になった1872年から2年弱、欧米を視察した岩倉使節団も3都市で水族館を見物したようです。
 その記録である「特命全権大使米欧回覧実記」に「水族室は魚類を生活せるままに養いおく室なり」と書かれています。
 このような見聞が基礎となり、日本にも水族館を作る気運が高まり、1882年に東京の上野公園に動物園とともに「観魚室(うおのぞき)」という名前の水族館が実現しました。
 細長い平屋の煉瓦造りの建物の片側に10個の水槽を並べて、120匹の淡水魚と77匹のカニを展示していました。

 西欧の真似から始まった水族館ですが、ここから一気に135年が経過した現在、日本は世界有数の水族館王国になっています。
 世界動物園・水族館協会という組織が2009年に発表した報告書によると、世界には独立で設置されている水族館が228館あり、そのうち67館(30%)が日本にあり、国別では世界最多です。
 2位が中国の60館(26%)、3位がアメリカの40館(18%)ですから、人口当たりで言えば圧倒的に多数あることになります。
 その中でも21世紀になってから建設されたものは、中国で22、アメリカで17ですが、日本でも13になっており、これも国の面積や人口からすれば、かなり多数になります。

 さらに日本が自慢できるのは見物客の多さです。
 不確実な情報ですが、中国では年間2億人という数字もあり1位ですが、2位がアメリカの4250万人、日本は3位で3260万人になっています。
 これも人口当たりの見物客にすると、中国は国民の14%(7人に1人)、アメリカは13%(8人に1人)ですが、日本は26%(4人に1人)になりますから、日本人は水族館好きだということになります。
 それは水族館の入館者数順位にも現れています。
 1位はフロリダにある「リビング・シー」、2位がオーランドにある「シーワールド」、3位がカリフォルニアにある「シーワールド」、4位が香港にある「オーシャンパーク」ですが、5位から8位は日本の「沖縄美ら海水族館」大阪の「海遊館」「名古屋港水族館」「横浜八景島シーパラダイス」が並び、12位にも「葛西臨海水族館(東京)」が登場します。

 それでは水族館の魅力はどこにあるかということですが、水中は人間にとって神秘かつ未知の世界で、それを垣間見るということだと思います。
 2011年にアメリカとカナダの大学が共同で発表した研究によると、細菌などを除く生物は陸上に650万種、海中に220万種が存在すると推定していますが、発見されていない種は陸上で86%、海中で91%になるそうです。
 陸上以上に海中は未知の世界で、そこを覗く機会を与えてくれるのが水族館ということになるわけです。

 そこで最後に、お薦めの水族館を紹介したいと思います。
 まず静岡県沼津市にある「沼津港深海水族館」です。沼津港に隣接しているというので歩き回ったのですが、なかなか見当たらないほど小さな建物でした。
 沼津港の前は駿河湾ですが、ここは水深2500mもあり、相模湾(1600m)、富山湾(1000m)と並ぶ日本の三大深湾の中でも圧倒的に深い湾です。
 そこで捕獲された深海の魚介類だけではなく、世界各地の深海生物が展示されていますが、もう一つの目玉がシーラカンスです。
 3億5000万年前から深海に生息している生きた化石と言われる魚で、5匹が展示され、2体は冷凍された生々しい様子で見ることができます。
 もう1舘は山形県鶴岡市にある加茂水族館です。
 ここはクラゲに特化した水族館で50種類以上のクラゲを展示していますが、直径5mの巨大水槽に4000匹以上のミズクラゲがゆっくり浮遊している様子を眺めると気分が和らぎます。

 水族館というと1頭1億円もするシャチ、4000万円のプラチナアロワナ、餌代だけで年間数百万円もかかるラッコなどを飼育している水族館や、天井が水槽になっていてペンギンが泳ぐ姿を下から見ることのできる資金豊富な水族館も楽しいのですが、それほど高価ではない深海魚やクラゲをゆっくり眺めて涼しい気分になるのも夏の過ごし方かと思います。





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