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論文

 10月1日にスペインのカタルーニャ州で、スペインからの独立について住民投票が実施されました。
 反対派の棄権が多く、投票率は43%程度でしたが、投票した人数の92%が独立に賛成という圧倒的支持でした。
 その結果、カタルーニャ州のプチデモン首相が独立宣言を行い、先月27日に州議会が、その独立宣言を採択しました。
 スペイン議会上院はすぐさま対抗してカタルーニャ州の自治権を停止し、スペイン検察もプチデモン氏や独立宣言の決議に賛成した議員を反逆罪で訴追することにして捜査を開始すると発表したため、それらの人々が30日にベルギーに逃亡したのではないかと言われています。

 逃亡先にベルギーを選んだのは、ベルギー国内にもオランダ語圏とフランス語圏があり、そのフランス語圏で同様の独立運動が存在し、また、スペインのバスク州の分離独立を求めている非合法組織「バスク祖国と自由(ETA)」のメンバーがベルギーに逃亡したとき、ベルギー政府がスペイン政府の引き渡し要請を拒否した実績もあるからです。
 それ以外にも、スコットランドでは連合王国からの独立の是非を問う投票が2014年9月に行われ、この時には反対が55%でしたが、再度、2019年に投票を実施するという動きもあります。

 このような独立の動きは世界各地に発生しており、中国では、チベット、東トルキスタン、南モンゴル、香港、台湾/インドのグルカランド/イラクのクルド人自治区/ドイツではバイエルン/フランスではブルゴーニュ、コルシカ、ノルマンディー/イギリスではスコットランド以外にウェールズ、北アイルランド/ロシアではチェチェン共和国やサハ共和国/イタリアではロンバルディア州やベネト州などがあります。
 歴史が短いアメリカ大陸でも、カナダのケベック州/アメリカのカリフォルニア州などに独立の意見があります。
 数えた方によっては世界で100以上の独立運動が存在しています。

 そのような運動が発生する理由は、今回のカタルーニャ州やスコットランドのように、かつては独立していた国が併合された場合、スペインのバスクやロシアのサハ共和国のように民族が違う地域が一体となった場合がありますが、共通する特徴は言葉が違っていたということです。

 そこで今日は言語の視点から独立運動を考えてみたいと思います。
 今回のスペインでは国の公用語はスペイン語(カスティーリャ語)ですが、17自治州のうち6州ではカタルーニャ語、ヴァレンシア語、バスク語などが州の公用語になっています。
 これらの言葉は州民によっては大変に愛着があり、それについて興味深いエピソードがあります。
 1992年にバルセロナで五輪大会が開かれた時、屋内競技場が10名ほどの指名国際競技設計になり、日本の磯崎新さんの案が選ばれて実現しました。
 審査のために設計図面と説明書を提出したのですが、磯崎さん以外の建築家は説明書をスペイン語で作成しましたが、磯崎さんはカタルーニャ語で作成したのです。
 もちろん、建物の案が良かったのが第一の理由ですが、この心憎い配慮も点数を稼いだと噂されています。
 民族にとって言葉が如何に愛着のある文化の基礎かを示すエピソードです。

 世界には現在、数人しか話す人がいない言葉も含めて約6900の言語があり、多数の少数民族が同居しているパプアニューギニアには840、オーストラリアには270、ネパールには120というような規模で分布しています。
 世界には200弱の国がありますが、使用されている主要な言語は、英語が62カ国、フランス語が34カ国、アラビア語が27カ国、スペイン語が20カ国、ロシア語が10カ国などで、残りの50くらいの国は独自の言葉を使用しています。
 しかし、話している人数になると、中国語の13億7000万人、英語の5億3000万人、ヒンディ語の4億9000万人、スペイン語の4億2000万人、アラビア語の2億3000万人がベスト5で、様相が違います。
 日本語は1億3400万人で9位に入っており、意外にもドイツ語やフランス語よりも、わずかですが多いということになっています。
 10位までを合計すると約40億人で世界の56%、20位までで48億人で67%ですから、世界の3分の1の人々は、この20言語以外の膨大な種類の言葉を話していることになります。

 言葉は生活や文化の基礎ですから、それを強引に統合することには反発があり、今回のカタルーニャもスコットランドも独立運動が発生する背景には言語問題があることになります。
 ところが、最近、新しい動向が出現しました。インターネットの浸透です。
 インターネットを何語で使用しているかを調査した今年6月の統計によると、1位が英語で9億8500万人(25%)、中国語が7億7100万人(20%)、スペイン語が3億1200万人(8%)、アラビア語が1億8500万人(5%)、ポルトガル語が1億5800万人(4%)となっています。
 ちなみに日本語は7位で1億1800万人(3%)ですから、ほとんどの日本人がインターネットを利用していることになります。
 これら上位10位までで77%になりますから、話されている言葉とは趣が違うことがわかります。

 さらに最近では、アップルやグーグルの自動翻訳能力が急速に上達し、文字になった情報ではかなりこなれた訳文に一瞬で変換してくれる時代になりましたので、文化と言語の関係が少しずつ変わってきました。
 これまで培われてきた文化は言語に集約されていますから、言語を維持することは民族にとって重要ですが、通信技術や情報技術の進歩によって、独立という意味が変わってくるかもしれません。





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