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論文

 明日12月22日はシーラカンスが発見された記念日です。
 南アフリカのインド洋に面したイースト・ロンドンという都市の博物館にマジョリー・ラティマーという学芸員がおり、博物館に展示する魚の標本について相談するため、ときどきチャラムナ川河口の港に行って漁師に会っていました。
 1938年12月22日に入港したトロール船の獲って来た魚の山を見ていたところ、体長1.5メートルほどの青いヒレを持った珍しい魚を発見しました。
 これは貴重な魚だと直感した彼女は魚を布で包んで死体安置所の冷蔵庫に保管していました。
 しかし、誰も関心を持ってくれないので、180kmほど離れたグラハムズタウンにある大学の教授にスケッチを送ったところ、絶滅したと思われていたシーラカンスだということが分かり、世紀の大発見になりました。
 そこで学名は発見者の名前ラティマーと川の名前チャラムナを合わせて「ラティメリア・チャラムナエ」と付けられました。
 この魚は3億8000万年前の地層から化石では発見されていましたが、生きた状態で初めて発見されたので「生きた化石」と言われるようになりました。
 このように化石として発見されている動植物で現在も生存している種類は身近にも多く、ゴキブリやソテツは有名ですし、カブトガニのように東南アジアでは現在でも食用になっている動物もいます。

 今日は自然界の生きた化石ではなく、日本社会の生きた化石を紹介したいと思います。
 その理由は来年が明治維新150年目になり、すでに幕末から明治にかけて多くの人材を出した、鹿児島、山口、佐賀、高知などをはじめ、各地で記念行事が予定されています。
 現在の日本の繁栄の多くが明治維新に起因する制度や政策によるとことは間違いないと思いますが、一方で150年近くも経過すると、制度疲労と言われるような問題も数多く派生しています。
 それらを「生きた化石」というのは失礼かもしれませんが、今日は明治維新150年前年の最後の番組なので、現在の日本社会の3点の制度疲労を考えてみたいと思います。

 第一は「廃藩置県」に起因する現在の行政制度です。
 江戸時代は徳川幕府が緩やかに統治するものの、社会活動も経済活動も270くらいの藩が独自に維持する地方分権社会でした。
 以下は新暦で紹介しますが、1867年11月9日に第15代将軍徳川慶喜(よしのぶ)が政権を天皇に返上する「大政奉還」、2年後の7月25日に各藩が領地(版図)と領民(戸籍)を天皇に返還する「版籍奉還」が実施されました。
 その約270の版籍を再編したのが「廃藩置県」で、何度かの修正がありましたが、1880年代にほぼ現在の道府県に近い行政単位ができ、現在に至っています。
 しかし、江戸時代と違うのは、明治政府が大きな権限を持つ中央集権制度で国家を維持して来たことで、現在の地方創生政策も地方自治体の自由な裁量で実行できるわけではなく、政府の枠内の中での実行しかできない状態です。
 しかし、社会に多様性が必要な時代になり、日本を地方分権国家にするべきであるという運動は1970年代から始まり、私も90年代には改革派知事と言われる方々と一緒に運動しましたが、なかなか変化しそうにありません。

 第二の生きた化石は「夫婦同姓」です。
 そもそも明治時代以前は一般庶民に姓はなく、「どこどこのだれだれ」という呼び方で通用していましたし、支配階級では夫婦別姓の例が多数あります。
 例えば、源頼朝の妻は北条政子、足利義政の妻は日野富子という具合です。
 しかし、1898年の民法で「戸主及ビ家族ハ其家ノ氏ヲ称スル、妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル」と決められ、現在の民法750条でも「夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏とする」と定められ、夫婦同姓が基本になっています。
 これは国家の実態を正確に把握するために必要であったかもしれませんが、世界の多くの国では夫婦別姓が主流で、1979年には国際連合から「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」を根拠に、選択的夫婦別姓の導入が日本に要求されていますし、日本の現状に対して2003年、2009年、2016年に国際連合の女子差別撤廃委員会から日本の民法の規定が「差別的な規定」と批判されています。
 2015年の新聞社によるアンケート調査でも、夫婦別姓を選択可能にする制度の導入に賛成は71%、反対は26%という結果になっています。   
 そのような制度が影響しているかもしれませんが、日本は男女平等に関する国際比較で低い地位にあります。
 例えば、世界経済フォーラムが毎年発表する「世界ジェンダー格差指数」の2017年版では日本は114位です。

 第三の生きた化石は「産業政策」です。
 最近、日本の大企業で不祥事が次々と発生していますが、神戸製鋼所、東レ、三菱マテリアルの子会社などはすべて二次産業の企業で、依然としてこのような製造業が日本の産業の中心です。
 しかし、今年11月の世界の企業の時価総額の順位を見ると、1位がアップル、以下、アルファベット、マイクロソフト、アマゾンドットコム、フェイスブックというアメリカの情報企業が1位から5位を独占し、6位はテンセント、8位がアリババと中国の情報企業です。
 アップルこそiPhoneやiPadというモノも生産していますが、他は情報のみを扱う会社です。
 日本で50位までに登場するのは40位のトヨタ自動車のみです。
 明治時代の産業政策である「殖産興業」は二次産業を盛んにすることで、それ自体は成功したものの、世界が情報産業に移行する時代には「生ける化石」になりつつあります。
 今年から来年にかけて明治維新150年を祝うということは、過去150年の業績を祝うというよりも、新しい時代を開くことへの挑戦にすべきだと思います。





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