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論文

 新年最初の放送なので、今年話題になりそうな技術の意外な側面を紹介したいと思います。
 最初はビットコインに代表される仮想通貨です。
 元旦の新聞でも、仮想通貨が特集されるなど、いよいよ急速に普及しそうな気配になってきました。
 通貨は人間の偉大な発明ですが、従来は「国家の信用を裏付けにして国家や中央銀行が独占して発行するもの」と定義されてきました。
 ところが、2009年に民間が開発した仮想通貨はネットワーク内部の情報としてしか存在しない通貨ですが、実際に売買や交換にも使用できるという性質を持っており、何にでも交換できるという通貨の特性を備えています。
 当初は際物扱いでしたが、次第に利用する人が増加し、すでにウルグアイでは昨年、中央銀行が仮想通貨「eペソ」を発行し、スウェーデンの中央銀行も今年中に仮想通貨「eクローナ」を発行する予定です。
 対応が遅れている日本でも、仮想通貨の大手ビットコインの取引が毎月4兆円近くになるほど利用されはじめています。

 それでは裏付けとなる信用はどのようにして担保されているかというと、その情報が絶対に盗難にあったり改竄されたりしない技術が信用供与しているという仕組みです。
 その技術が「ブロックチェーン」といわれるもので、取引の情報をハッシュ関数という暗号技術を使って変換し、その情報を膨大な数のコンピュータに分散して記録しておきます。
 仮に1台のコンピュータの情報を改竄しても、それ以外のコンピュータの情報と比較して、すべてのコンピュータに同じ情報が記録されていなければ、その取引は成立しないという仕組みです。
 この検証する仕組みを「マイニング」というのですが、ここに仮想通貨の落とし穴がありました。

 大量のコンピュータの情報を照合するためには多数のコンピュータを使用して膨大な計算をする必要があり、電力を大量に消費するという問題が発生してきたのです。
 昨年1年間でビットコインのマイニングに使用された電力は33テラワット時になり、これは日本の電力消費量の3.3%、デンマークの年間電力使用量に匹敵し、今年はイギリスの電力使用量と同じ量の360テラワット時、来年にはアメリカと同じ4200テラワット時になると予測されています。
 世界の一昨年の電力消費量は21500テラワット時ですから、昨年のマイニングに使用された電力は世界の電力消費量の0.2%ですが、今年は1.7%になり、来年には20%にもなるということです。
 それは当然、仮想通貨を維持する費用にも反映しますから、エネルギーの面でも、電気代という維持費用の面でも仮想通貨は破綻しかねません。
 もちろん技術革新により計算の電力消費は多少は減っていきますが、意外な落とし穴が待っているということです。

 やはり元旦の新聞が話題にしたのが、ロボットの躍進です。
 人工知能を内蔵したロボットが社会に進出してくるという内容で、建物の内部や周辺を自動で警備するロボット、自分で敵を発見して攻撃するロボット、日本では田植えをして収穫もするロボットなどが使用されはじめています。
 それらはあらかじめ設定された目標を自動で達成するだけで、あくまで人間を補助するという役割と想定されています。
 それでは人間のように自由に対応する知能を持つロボットはどうかというと、半世紀以上前から「チューリングテスト」という方法が考案されています。
 密室に置かれた人間とコンピュータに同じ質問をし、双方からの回答が人間かコンピュータか区別できないとしたら、そのコンピュータは人間並の知能を持っていると判断する方法です。
 これは2014年にイギリスの大学で、ウクライナに住んでいる13歳の少年という想定で問答をしたところ、どちらがコンピュータか判断できないというところまで到達しています。

 これはコンピュータの能力だけでしたが、昨年10月、サウジアラビア政府が外見をオードリー・ヘップバーンに似せた「ソフィア」というロボットに市民権を与えると発表しました。
 これは香港の会社が開発したロボットで、最初に「私は人間とともに生き、働いていきたい。そのため人間を理解し、信頼を築く必要があります」と挨拶し、その後、インタビュアのかなり早口の英語の質問に、仕草を交えて顔の表情も変えながら、流暢な英語で返答しています。
 「ユーチューブ」で見ることができますが、例えば、ロボットのもたらす暗い未来についての質問には「あなたはイーロン・マスクの意見や映画の見過ぎだ」と指摘し、「あなた方が私に親切なら、私もあなた方に親切にします」と見事に切り返しています。
 イーロン・マスクは電気自動車や宇宙ロケットの開発で有名ですが、人工知能には否定的な意見の経営者です。
 サウジアラビアは今年6月に、ようやく女性の自動車運転を許可するなど女性の人権を制約している国で、そちらの方が先に解決する問題だという意見もありますが、一方で、2045年にはスーパーコンピュータが人類全体の知能を凌駕するという意見もあり、今年は人間とロボットの新しい関係が始まる転換期になるかもしれません。  

 そこで人工知能に負けないように人間を賢くする技術も登場しはじめました。
 アメリカの研究所と大学が共同で発明したヘルメットのような装置をかぶると、針などを突き刺すのではなく、外部から脳細胞を刺激する電流が流れます。
 サルの実験では学習能力が40%向上したという結果が報告されています。
 受験生や経営者に受けるかもしれません。
 地球温暖化によって気温が上昇すると、人間の複雑な意思決定の能力が低下するという結果も発表されており、人間は人工知能と気温上昇の両方から攻撃を受けるような事態に直面しており、人間の存在意義は何かを真剣に考えないと、単純に人間の仕事がロボットに奪われるというだけではない未来に直面するかもしれません。





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