TOPページへ論文ページへ
論文

 今年はイヌ年ですが、このイヌが最近、話題になったのは、昨年、日本でイヌとネコの飼育頭数が逆転したことです。
 日本のペットフード協会の調査によると、2013年にはイヌが970万匹、ネコが940万匹でイヌが30万匹ほど多かったのですが、2016年には940万匹と930万匹でネコが10万匹まで迫り、ついに昨年の2017年には890万匹と950万匹でネコの方が60万匹も多い大逆転になりました。
 これは集合住宅に生活する人口が増えて飼育しにくくなったことや、ネコは飼育費用が毎月7500円に対し、イヌは1万800円で費用がかかることが影響しているのではないかと思われます。
 しかし世界のイヌの飼育頭数はアメリカが7000万匹、ブラジルが5200万匹、中国が2740万匹など桁違いです。
 人口当たりに換算しても、アメリカは5人に1匹、ブラジルは4人、イギリスは7人で、日本は14人に1匹です。

 このようにイヌやネコは愛玩動物として飼育されていますが、それ以外にも役立っている分野があります。
 今週、埼玉県にある航空自衛隊の入間基地を訪問し、C−1輸送機やT−4練習機を見学させてもらいましたが、意外だったのは警備犬の訓練を基地内でおこなっていることでした。
 基地への不審な侵入者に対応する目的もありますが、もう一つ重要な仕事はこっそり仕掛けられている爆弾などを発見することで、数10頭のジャーマン・シェパードを訓練し、全国各地の航空自衛隊の基地に送っているそうです。
 実演を見せてもらいましたが、自動車の座席の下に隠された爆弾を簡単に発見して係に知らせていました。

 このようにイヌの嗅覚は敏感で、人間の100万倍以上と推定されていますが、その原因は遺伝子の中の嗅覚に関係する遺伝子の数です。
 分子進化学を専門とする新村芳人(にいむらよしひと)東京大学特任准教授が2014年に発表された研究によると、人間は400くらいですが、イヌは800、ウマは1100、ウシは1200で、もっとも多いゾウは2000とのことです。
 したがって、ゾウはイヌよりも嗅覚が優れており、数キロメートル先の水の匂いを嗅ぎとることも可能です。
 1億年前の哺乳類の共通の祖先は嗅覚に関係する遺伝子を780個くらい持っていましたが、人間は視覚に依存するようになったので、嗅覚が衰退してきたのだそうです。

 このイヌの嗅覚を利用して、空港で麻薬の匂いのする荷物を発見したり、犯罪現場で火薬の匂いで武器を発見する警備犬として役立てているのですが、それ以外にも様々な分野で利用されています。
 まず病気の発見にイヌの嗅覚を利用する研究が進んでいます。
 人間の吐く息で「肺がん」や「乳がん」を発見、血液の匂いで「卵巣がん」、肌の匂いで「皮膚がん」、大便の匂いで「大腸がん」を発見する研究が進んでいます。
 イヌ以外の動物でもアフリカオニネズミは唾液の匂いで「結核菌」を86%以上の精度で識別できますし、ハツカネズミが鳥の糞の匂いで鳥インフルエンザを発見できるという研究も進んでいます。
 さらにキイロショウジョウバエもがん細胞に反応しますが、ただ反応するだけではなく、反応の程度によって触覚の細胞の中にあるカルシウムの量が増えるので、定量的な判断にも役立つのです。

 これら病気の発見だけではなく、様々な分野で嗅覚が利用されています。
 欧米では住宅などを食い荒らすシロアリの発見に、1970年代からビーグル犬が使用されています。
 そこで日本でも2006年からアメリカで訓練されたビーグル犬を導入してサービスを提供する会社が出現し、発見率は9割を超えているそうです。
 フランスでは世界三大珍味の一つとされるトリュフの発見にメスブタを使うというのは有名です。
 カシワの木の根元の地中30cmくらいに埋まっているので、目で探すことができないので、匂いで探すわけです。
 なぜメスブタかというと、トリュフの匂いが発情した時のオスブタの出す匂いの元となる物質と同じ物質だからです。
 しかし、森の中でブタを連れて歩いているとトリュフ探しだとわかってしまい、森の所有者に誰何されるので、最近ではイヌを仕込んで探すことが流行りはじめました。
 地中に埋まっている人骨を発見するイヌも登場しています。
 ラブラドールミックス犬で能力を発揮するイヌが存在し、425年前に埋められた人骨や、600年前の人骨を地中から発見しています。
 爆弾の発見には警備犬が活躍していますが、さらにネズミやミツバチも利用されています。

 イギリスの空港ではミツバチをスーツケースの中身の検査に使っています。数10匹のミツバチを入れたカゴに電気掃除機のような装置で検査するスーツケースの周辺の空気を送り込むと、爆薬の匂いがあるときはミツバチの動きが活発になるので、その様子を見て人間がスーツケースを検査するというわけです。
 オランダでは地雷の発見にネズミが使われています。
 地雷に仕込まれた火薬の匂いに反応して発見してくれますし、体重が軽いので地雷に触れても爆発しにくいという利点もあるそうです。
 警備犬は今回、入間基地で見学させていただいたように訓練が必要ですが、ハチやネズミは特別に訓練する必要がないので、今後、利用が増加すると期待されています。
 人間は万物の霊長と威張っていますが、今日ご紹介したように、多くの動物に敵わない能力も多く、改めて自然に対して謙虚になる必要があると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.