TOPページへ論文ページへ
論文

 アーバンマインという鉱脈に注目

 数十年後にはエネルギー資源や金属資源は枯渇するが、これは地球の歴史からすると異常なことである。人類が金属を最初に使用したのは六○○○年前程度のことであるが、これは四六億年という地球の歴史の○・○○○一%の時間、生命が陸上へ進出した四億年前から○・○○二%の時間、人類が誕生した六○○万年前からでも○・一%という時間である。そのわずかな時間で人間が地球の貯金を蕩尽しようとしている異常事態である。

 この動向を制止することは出来ないであろうし、無理矢理制止すれば現代社会は根底から崩壊することになる。現在の人類が出来ることは、枯渇までの年数を延長して、その時間で対策を考慮することであるが、その対策のひとつが三Rなのである。資源の使用を削減するリデュースと製品や部品を何度も利用するリユースについての実例と効果は先週紹介したので、今週はリサイクルについての紹介から開始したい。

 アーバンマインという言葉がある。直訳すれば都会の鉱山となるが、リサイクルは鉱山の採掘に匹敵するという意味である。エコ・リュックの数字によれば、一㌧の「金」のためには三五万㌧の鉱石を処理する必要があるが、これは金含有率○・○○○三%に相当する。ところが携帯電話には配線などに「金」が使用され、一㌧の製品には二○○㌘ 程度の「金」が含有されている。比率にすれば○・○二%と、金鉱の六○倍近い数字である。

 実際、世界に年間供給される「金」は四○○○㌧弱であるが、鉱山から新規に供給されるのは約六五%に相当する二六○○㌧弱であり、約二○%の八○○㌧は政府や企業などが保有していたものの売却、一五%強の六○○㌧は携帯電話やコンピュータなどの廃品から回収されたものである。リサイクルは新規の鉱脈を発見し採掘するのに匹敵する効果があるということである。

 エコ・リュックが示唆する、もうひとつの重要なリサイクルの意義がある。一㌧のアルミニウムを生産するためには約八五㌧のボーキサイトの鉱石を処理する必要があるが、アーバンマインである現代社会からアルミカンなどを回収して生産する場合は三・五㌧で十分である。アーバンマインの鉱石はオーストラリアなどで産出されるボーキサイトの原石より約二四倍も上質というわけである。

 このリサイクルは日本にとってさらに重要な意味がある。日本は食糧自給比率が約四○%、穀物が約二八%、木材は二○%弱、そしてエネルギー全体で四%というように、必要な資源を大量に海外に依存している。そして鉱物資源も同様に、亜鉛のみは約一五%を自給しているものの、鉄鉱、銅鉱、ボーキサイトは一○○%を輸入に依存している。そして、これらの資源が百年という単位で枯渇するとすれば、大変に脆弱な状態である。

 そのためには資源を安定して確保できる国際関係を構築することも重要であるが、資源が枯渇状態に接近してくれば、価格が高騰して購入が困難になるし、そもそも市場から消滅するかもしれない。そして、その消滅の速度を加速する要因がある。三○年前の一九七○年代中頃、中国の銑鉄生産は世界五位で、日本の二割程度であったが、九○年代中頃に首位となり、現在では世界の三割を生産する断然の一位である。

 ところが中国の鉄鉱石埋蔵量は世界の一割程度であるから自給できず、大量の鉱石を海外から輸入している。一○年前には世界の鉄鉱石貿易量は三億八○○○万㌧で、その一割の三七○○万㌧を中国が輸入していた。しかし、現在では全体が五億四○○○万㌧に増大するとともに、中国は三割に相当する一六三○万㌧を輸入している。そうなれば価格の高騰もさることながら、資源の争奪戦争になりかねない事態になる。

 そこで登場するのがリサイクルである。日本は一億一○○○万㌧の粗鋼を生産しているが、国内需要は七七○○万㌧である。その原料は六割以上が鉄屑であり、新規の鉱石を上回っている。それを反映するかのように、建設産業の長期予測では、新規建設の費用よりも維持補修の費用が急速に増大し、一五年後には建設予算の半分以上が維持補修になると推定されている。

 このような視点から建設産業の将来を検討してみると、これまでのように新規の道路や新規の建物を建設するという仕事よりも、既存の施設を維持補修する仕事と、廃棄される施設の材料をリサイクルする仕事が重要になると予測される。日本の経済成長は七○年代の二桁成長、八○年代の六%程度、九○年代の一%前後と減少し、今後は○・五%以下と予測されている。そのような成熟社会ではリサイクルは重要な産業になるのである。



designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.