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論文

 最近、インターネットを利用したオークションが流行している。ネットワーク内部に競売の空間が用意され、そこに個人が売却したい品物を写真などとともに出品すると、国内だけではなく海外からも多数の人々がネットワークを経由して自由に入札し、一定時間が経過した段階で、最高価格で入札した人間が落札するという仕組である。

 当初は物好きな人々や若者の娯楽のように理解されていたが、現在では巨大な流通機構になりはじめている。日本で最大のインターネット・オークションは「ヤフー・オークション」であるが、約六○○万人の会員が登録し、それらの人々の取引が本年五月には総額で約四六○億円になり、年間平均でも月四○○億円を突破している。これは西友や丸井などのスーパーマーケットの毎月の売上げに匹敵する規模である。

 このように個人と個人がネットワークを媒介して取引することをCtoC(コンシューマー・トゥ・コンシューマー)というが、その前段としてBtoC(ビジネス・トゥ・コンシューマー)という取引がある。代表はインターネット・ショッピングで、ネットワーク内部の商店が商品を陳列して、人々が注文して購入する方式である。書籍の販売では利用する人々が急増し、一般の書店の販売に影響するほどになりつつある。

 日本での最大のインターネット・ショップは「楽天」であるが、販売されている商品種類は八○○万を突破し、毎月の売上は約一四○億円である。外国から進出したスーパーマーケットより巨大なスーパーセンターといわれる郊外の販売店舗の品数でさえ二○万点程度であるから、インターネット・ショップの規模が想像できる。そして、この「楽天」が今年からサッカーチーム「ヴィッセル神戸」の持主になったことは周知である。

 このBtoCは九八年度には日本での売上が約六五○億円であったが、○三年度に四兆四二四○億円と五年で六倍以上に成長した。日本のデパートの売上合計が約八兆円であるから、その半分の規模になってきたのである。デパートの象徴である三越は二○世紀とともに誕生したが、七○年代にスーパーマーケットのダイエーに売上で逆転された。そのダイエーは世紀の転換時点にコンビニエンス・ストアのセブン・イレブンに逆転された。

 そして現在、インターネット内部の流通が売上の規模において既存の流通構造を凌駕しようとしている。しかし、今回は単純な栄枯盛衰の物語ではない。第一に、これまでの逆転はリアル空間での実物を対象とした流通方式相互の勝負であったが、今回はバーチャル空間という情報だけの取引という異質の世界からの挑戦である。既存の流通組織にとっては未知の相手との勝負であり、どのような決着となるかは不明である。

 さらに重要なことは、バーチャル空間の取引がリアル空間の何千年間という歴史のある流通構造を破壊することである。リアル空間の取引では生産段階から消費段階まで、途中に問屋、卸売、小売など複雑な流通組織があり、そこを経由するごとに値段が上昇していく。しかし、バーチャル空間の取引は最初と最後が直結してしまうから、途中の流通段階を省略するとともに、価格も破壊する。

 日本の国内総生産五五○兆円の約二五%は卸売と小売という流通段階での付加価値である。したがって、この部門で構造破壊が発生するということは、社会全体の秩序に多大な影響をもたらし、場合によっては社会構造が破壊されることにもなりかねない。最早、物好きな人々の娯楽ではなく、バーチャルビジネスは改革の旗手となりつつある。





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