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論文

 人間が生活するためには様々な種類の土地が必要である。まず生活の基点となる住宅を建設する土地、仕事の基点となるオフィスや工場を建設する土地、日常生活に必要な商業施設や教育施設や医療施設を建設する土地、それらを相互に連絡するための道路や鉄道など交通施設を建設する土地など、生活を基準にしても様々な土地が必要である。

 それ以外に、穀物や野菜などを栽培する農地、家畜を飼育する牧場、土地ではないが魚類を捕獲する海面など、食糧を生産するための土地が必要であるし、生活や産業を維持するための石油や石炭などのエネルギー資源を採掘する土地、金銀や鉄鉱などの各種の鉱物資源を採掘する土地、木材を伐採する森林なども必要である。そして人間の活動が発生させる炭酸ガスを酸素に循環させる森林や海面も必要である。

 このように人間が地球で生活するためには様々な土地を利用しているが、それらの土地の合計は「エコロジカル・フットプリント」と命名されている。人間が生存するためには自然環境を踏付けて足跡を記録しているという意味である。この概念を十年程前から提言し、それを計算して地球規模の環境問題の危機を世界に警告しているグローバル・フットプリント・ネットワークという組織がある。

 このエコロジカル・フットプリントを世界各国について上記の組織が計算した結果があるが、日本の人々が生活するのに必要な土地面積は一人につき約四・八㌶という数字になっている。しかし、日本の約三八○○万㌶の国土とその周辺の領海が提供できる面積は、一人あたりに換算すると約○・七㌶でしかなく、必要な面積の七倍も不足している。それは国外のどこかの土地を借用して穴埋めしているのである。

 日本の現状を検討してみると、食糧自給比率はカロリー基準で約四○%であるから、それ以外は海外で生産された食糧を輸入している。その結果、我々は国内にある四七○万㌶の農地以外に、海外にある約一二○○万㌶の農地で生産される食糧に依存して生活していることになる。石油も石炭も自給比率は実質ゼロであるから、これも海外に依存しているし、木材も自給比率は約二○%であるから、海外の森林を利用していることになる。

 これが異常な状態であることを理解するために、もし世界の人々が日本と同等の水準の生活をすれば、何個の地球が必要かを計算してみると二・五個という結果になる。さらに、アメリカの生活水準で世界の人々が生活すれば五・二個であり、現在の先進諸国の生活は完全に破綻しているということになる。そして現状でさえ、地球が一・二個なければ世界は維持できないとされている。その不足は一部の人々の貧困な生活で穴埋めされている。

 この海外へ依存した生活は別種の問題をもたらしている。我々が年間消費する食糧は世界各国から大量に輸送されてくるが、その合計は約九○○○億㌧㌔㍍になっており、一人あたりでも四○○○㌧㌔㍍になる。その輸送に消費されるエネルギーも大量であるが、より深刻な問題は、必要な食糧、必要な資源が、いつまでも確保できるかということである。現実に最近では、中国の食糧輸入の増大で大豆などは急激に高騰しはじめている。

 もちろん、世界は貿易による相互依存で成立している側面は否定できないが、食糧や淡水や資源など、国民が生活するために必須の資源については、大幅に他国に依存しないようにする安全保障の発想が必要である。それを検討するためにもエコロジカル・フットプリントは重要な概念である。



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