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論文

 六月下旬から七月末日までの四○日間、北海道内だけのサマータイムが実施される。任意に参加する官庁や企業が通常より早目に始業し早目に終業する実験である。昨年から数百の組織が参加して実施しているが、緯度の関係で朝四時頃には夜明けになる夏季に、午前九時からの始業では日中の時間が無駄になるという発想である。

 和製英語であるサマータイムを本物英語では「デイライト・セービング・タイム」、すなわち日光を有効に利用する時間制度というのは、そのような理由である。しかし、サマータイムは、これ以外にも様々な効果が期待されている。第一は経済波及効果である。午前七時から仕事をして午後三時に終了すると、日中の余暇時間が増加し、結果として個人消費も増加するというわけで、北海道内で一夏に一○○○億円以上の消費増大が目論まれている。

 第二はエネルギー節約効果で、照明電力の節約が中心になるが、北海道内では金額にして二○億円、日本全体でも年間のエネルギー消費の○・二%程度であり、期待ほどの節約ではない。それ以外に、帰宅時間が早目になるので防犯効果があるとか、日中の運転が増加するので交通事故が減少するとか、環境問題を国民が意識するようになるなどの効果が宣伝されているが、だれもが納得するほどの理由ではない。

 その一方で反対する意見も多数ある。第一は労働強化になるという反対である。仕事が午後三時に終了とはいうものの、そのような時間には帰宅しづらく、サービス残業が増加するという意見である。実際、日本では戦後の四年ほどサマータイムが実施されたが、労働強化になるという反対が根強く、廃止になった経緯がある。同様に、余暇時間が増加するといっても、翌朝を考慮すれば夜更かしもできず、効果は期待できないという意見もある。

 最近になり、日本睡眠学会が懸念を表明しているが、人間には体内時計という生理現象があり、突然、習慣を変更しても順応に時間がかかり、多数の人々が睡眠不足になり、その結果、交通事故などが増加するという意見である。実際、昨年サマータイムを実験した札幌でのアンケート調査結果では、睡眠不足になったという回答が約二七%にもなっているし、以前からサマータイムを実施しているヨーロッパでも同様の意見は根強くある。

 しかし、最大の問題は時計の時刻を進行させることによる混乱である。北海道版のサマータイムは時計の変更はしないので問題は発生しないが、現在、国会議員が立法を目指している法案は、毎年七ヶ月間、時刻を変更するという内容である。その問題の一例として交通信号の変更がある。全国に一六万台ほどある交通信号は時刻によって青赤の時間を調整しているが、これを一年に二回変更すると約五○○億円の費用がかかると推定されている。

 また、現在の社会では家庭でも職場でも大量の時計が使用されている。それらは壁掛時計や目覚時計という時刻を表示するものだけではなく、ありとあらゆる家庭電化製品や情報機器に制御を目的として内蔵されている。それらを毎年二回設定変更するだけで、二○○○億円以上の経費が必要という推計もあるし、その変更の失敗によって混乱だけならまだしも、交通事故などの被害が発生することも予測される。

 日出と日没を基準とした江戸時代の不定時法は自然とともに生活するという素晴らしい制度であったが、現代のように各家庭内だけでも数十の時計がある時代に実施するわけにはいかない。そうであれば、時間を変更するのではなく、人間が自身の体内時計を基準に生活していくことが、もっとも自然であり、それを制度で左右しないほうがいい。



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