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論文

 今年十月後半に開催された「東京国際映画フェスティバル」は、一般には新作「ターミナル」の主演男優トム・ハンクスの久々の来日や、ゴジラ映画の最終作品とされる「ゴジラ・ファイナル・ウォーズ」の上映が話題になったが、専門の人々の関心が集中した分野がある。デジタルシネマといわれる新規技術である。

 映画はアメリカのトーマス・エジソンが発明した「キネトスコープ」や、フランスのルイ・リュミエールとオーギュスト・リュミエールの兄弟が発明した「シネマトグラフ」など、十九世紀最後の時期に発明された技術が元祖である。それ以後、白黒映画が色彩映画に、無声映画が音声映画に、シネラマ方式など大型映像になるという発展があったが、フィルムに撮影して映写するということでは、百年以上変化のない技術であった。

 そこに登場したのがフィルムを使用しないデジタルシネマである。写真の世界では、すでにデジタルカメラが隆盛となり、最近では生産台数でフィルムカメラを上回るようになっているが、映画の撮影もデジタル方式へ移行しはじめたのである。もちろん、第三世代の携帯電話でもホームビデオカメラでもデジタル方式で動画が撮影できるが、デジタルシネマでは三五ミリフィルムに匹敵する画質が要求される。

 そこで現在、四○九六画素×二一六○画素の「4K」といわれる規格と、その半分の二○四八画素×一○八○画素の「2K」といわれる規格の技術が開発されている。「4K」は三五ミリフィルムに匹敵、「2K」はデジタルハイビジョンに匹敵する画質であるが、いずれもハードディスクなどの記憶素子に画像を記録し、それをノンリニア方式といわれるコンピュータによる編集をし、プロジェクターで映写するという技術である。

 この方式の利点の第一は、ポスト・プロダクションといわれる画像の加工や編集が容易になることである。最近の映画ではコンピュータ・グラフィックスを多用し、その画像と実写を合成するのが普通であるが、実写の場面が最初からデジタル画像であれば、合成などの加工は簡単である。現在ではパーソナル・コンピュータでポスト・プロダクションができる安価なソフトウェアも登場し、映画の制作方法は急激に変化しつつある。

 しかし、それ以上に重要なことは映画の配給方式の変化である。フィルムの場合は原版から複写したプリントといわれるモノを各映画館に輸送しているが、デジタルシネマになると、サーバーから通信で情報を電送すればいい。実際、東京国際映画フェスティバルでは、大阪から東京の会場までインターネット回線経由で電送する実験が公開されたが、数百キロメートルの彼方から送信されているとは気付かないほどの画質であった。

 これだけでも映画という商品の流通方式が激変するが、将来は家庭に直接送信するということも可能になるから、まったく新規のメディアが登場するということにもなり、世界各国が競争で技術開発をしている。現状では、機器の開発においては日本企業が優位であるが、過去の経験からすれば、どのようなメディアも多数の人々が関心をもつ内容(コンテンツ)を制作したところが優位になる。

 このコンテンツの制作では、アメリカのハリウッドの優位は当然として、中国や韓国では国家がデジタルシネマの人材育成や作品制作を支援している。それに比較すると、日本はこれまでと同様にハードウェアに関心がありすぎるのが現状である。コンテンツの優位こそ市場支配の源泉であるという認識をもって努力する必要がある。




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